書籍・雑誌

奥田英朗「用もないのに」

奥田英朗のエッセイ「用もないのに」を読みました。

伊良部シリーズに通じる爆笑必至の旅エッセイ。星野ジャパンに怒り、恐怖を堪えてジェットコースターに乗り、うどんを啜りながら歩き遍路に挑む。作家が出歩けば笑いが生まれる!?自称”ひきこもり作家”の奥田さんですが、編集者にそそのかされ(騙され?)東へ西へ、奔走します。各編とも笑いのエッセイがいっぱい。そしてちょっぴり、人間の営みの奥深さに思い至るのです。(BOOKデータベースより)

「用もないのに」出歩いた奥田英朗の旅行記で、「野球編」と「遠足編」の2パートに分かれています。

「野球編」はあの「泳いで帰れ」の続編「再び、泳いで帰れ」が収録されています。北京オリンピック時のイライラ感が、ユーモア溢れる文体で書かれており、秀逸です。(できればもう少しボリュームがあっても良かったかな。)

「遠足編」は世界一のジェットコースター「ええじゃないか」の体験記が最高です。大の大人がジェットコースターに恐怖を抱く様子が腹を抱えて笑えます。

肩肘はらずに読めますので、初冬の夜長にいかがでしょうか。

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貫井徳郎「乱反射」

こちらに来て、毎日慌ただしい日々を過ごしていますが、マイペースで読書も進めています。

先日読了した貫井徳郎「乱反射」の感想でも。

幼い命の死。報われぬ悲しみ。遺された家族は、ただ慟哭するしかないのか?良識派の主婦、怠慢な医師、深夜外来の常習者、無気力な公務員、尊大な定年退職者。複雑に絡み合うエゴイズムの果て、悲劇は起こった…。罪さえ問えぬ人災の連鎖を暴く、全く新しい社会派エンターテインメント。 (BOOKデータベースより)

プロローグの次に「-44」章から本書は始まります。最初は???でしたが、中盤で「0」章になり、通常の章が進んでいきます。-から始まるありふれた日常と0から始まる怒涛の急展開のギャップに圧倒されました。

本書の登場人物たちが犯すモラル違反はとてもささいなもので、自分もやりかねないものばかりです。(さすがに風邪で夜間診療にかかろうとは思いませんが)だからこそ、主人公の2歳になる子供が、そのモラル違反の連鎖で死に至る過程は、身に迫るものがありました。

「何が」、「誰が」、「どのような行いが」、悪いのか真剣に考えさせられる作品です。読後感は決して爽やかではありませんが、快作であると思います。

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今野敏「疑心~隠蔽捜査3」

今日は強い風がひたすら吹き荒れた久慈でした。明け方の突風で叩き起こされてしまったせいで、何となくボーっとして日中を過ごしてしまいました・・。

本日の「読む日記」は今野敏「疑心~隠蔽捜査3」です。

キャリアながら息子の不祥事で大森署署長に左遷された竜崎伸也。異例の任命で、米大統領訪日の方面警備本部長になった彼のもとに飛び込んできたのは、大統領専用機の到着する羽田空港でのテロ情報だ―。 (「BOOK」データベースより)

隠蔽捜査シリーズも3作目となりました。

変人キャリア竜崎の活躍にもますます磨きがかかってきていますが、今回はいつもと様子が違い、なんとあの竜崎が美人部下に「不倫」の一歩手前(?)の感情を抱き、その感情に振り回されてしまいます。

過去2作では常に「論理」で生きてきた竜崎が「感情」に振り回される様子は、滑稽でもありますが、その感情の描写が細やかに書かれていて、思わず同情してしまったり・・。

竜崎の感情の変化ばかり書きましたが、ストーリーそのものもテンポよく、伊丹刑事部長等おなじみのキャラクターとの掛け合いもなかなか面白かったです。

本作における竜崎のご乱心ぶりを感じてもらうためにも、できれば第1作から読み進めてほしい作品ですね。お薦めです。

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つば九郎のおなか

今日はシトシトと雨が降り続き、肌寒い久慈でした。少し早目に帰宅して当ブログを書いていますが、あまりの寒さにストーブを付けました。

さて、なかなか読むことができなかった「つば九郎のおなか」を読みました。

コアラ風のドアラ(中日)へ、ツバメのつば九郎(ヤクルト)からの挑戦状! 東京ヤクルトスワローズのマスコット、かつ、人気ブロガーのつば九郎が“おとなのじじょう”により、本を書きました。

本書は、『ドアラのひみつ』(ドアラ著)にインスパイアされたつば九郎によるオマージュともいうべき作品です。つば九郎が手羽の動くがままに、すなおな思いを明かしています。 恋、悩み、体型、名前、巣、小鳥の頃、明日の行方……。

ひとことで言うと面白かったです。ただ、その面白さの中に深さがありました・・・。かわいらしいつば九郎にもいろいろと「おとなのじじょう」があるんですね。

全編ひらがななので、老若男女誰でも楽しめる本です(笑)。一読あれ。

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本多孝好「チェーン・ポイズン」

本多孝好「チェーン・ポイズン」を読了しました。

誰にも求められず、愛されず、歯車以下の会社での日々。簡単に想像できる定年までの生活は、絶望的な未来そのものだった。死への憧れを募らせる孤独な女性にかけられた、謎の人物からのささやき。「本当に死ぬ気なら、1年待ちませんか?1年頑張ったご褒美を差し上げます」それは決して悪い取り引きではないように思われた―。(「BOOKデータベース」より)

本多孝好の作品は初めて読みましたが、どことなく文体が村上春樹を意識しているような気がしました。この文体は好みがはっきり分かれそうです。自分は嫌いではありませんが・・・。

話そのものは面白かったです。主人公(?)の生に絶望した「おばちゃん」が、成り行きで引き受けた養護施設のボランティアを通して、人としての心を取り戻していくその過程が丁寧に書かれていて、グイグイと引き込まれました。特にも終盤のくだりは圧巻でした。

最後に「そうきたか!」と唸らせるどんでん返しが待っていますが、正直言うとこのようなミステリー風味は必要なかったと思います(自分はきれいに騙されましたが)。上に書いたとおり、主人公の「おばちゃん」が人間性を取り戻していく過程を中心に描くだけで十分に傑作たりえた作品ではないでしょうか。

少し注文をつけましたが、面白い小説であることは間違いありません。掘り出し物でした。

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野村克也「野村再生工場」

「ノムさん」こと楽天の野村監督著「野村再生工場」を読みました。

ボヤいても、知将は限られた駒で勝利する。伸び悩んでいる選手のほとんどが「自分はこれで精一杯だ」と考えている。これではもはや成長は望めない。人間再生の極意とは、一つの言葉と本人の「気づき」にある。それだけで人は変わる。(「BOOKデータベース」より)

3つの視点で読める本です。一つは組織で上に立つ者が後輩や部下を指導するために何が必要かを説いた本。二つは組織の中で自分の成長を感じられない者がいかにしてステップアップするかを説いた本。三つは純粋な野球理論を学ぶために読む本です。

個人的には「人間的成長なくして技術的進歩なし」、「自己限定を捨てて自身を持つ」、「再生とはよく観察し、気付かせること」のくだりにはハッとさせられました。

野球好きの人はもちろん、そうでない人にも貴重な組織論を説いた本としておすすめです。

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黒川博行「国境」

年末以来、鳴りをひそめていた腰痛が復活しやがりました。仕事中も違和感を感じて今一つ仕事に集中できないし、困ったものです・・・。

それはさておき、本日は黒川博行「国境」の感想でも。

衝撃だった。ここまで悲惨な状況だとは思ってもみなかった。それでもなお、この国は“地上の楽園”なのか。建設コンサルタント業の二宮と暴力団幹部・桑原の「疫病神コンビ」が、詐欺師を追って潜入した国・北朝鮮で目にしたものは、まるで想像を絶する世界だった―。(「BOOKデータベース」より)

前作に引き続いて楽しく読むことができました。「地上の楽園」と称された北朝鮮の地獄のような状況がリアルに伝わってきました。参考文献の欄の多数の資料は著者の本作に込められた執念のようなものを感じました。

展開がちょっと読めてしまったシーン(国境越えなど)があったことが残念ですが、それを補って余りある筆力は見事としかいいようがありません。実はハードな暴力シーンなどもあるのですが、桑原と二宮の漫才のような関西弁のやり取り、紅一点(?)の悠紀の存在などで不思議と重苦しさを感じません。以前「厄病神」の感想でも記しましたが、この「名コンビ」の活躍は何作でも読んでみたいですね。

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小林よしのり「いわゆるA級戦犯」

寒さが厳しい冬の夜は、おうちでゆっくり読書ということで、先日読了した小林よしのりの「ゴー宣スペシャル いわゆるA級戦犯」の感想です。

いわゆるA級戦犯とは何だか知っていますか?彼らがどのように選ばれたのか知っていますか?そして彼らをデッチあげた東京裁判がどんなものだったのかを、あなたは知っていますか?(BOOKデータベースより)

「A級戦犯=東条英機=ヒトラーみたいな戦争好きな残酷者」位の認識しか持っていない人がこの本を読んだら歴史観が根底から揺さぶられると思います。

「A級」とは戦争を遂行した国家指導者など、「B級」は戦場で命令する立場にいた指揮官など、「C級」は実行した兵隊等と連合国が便宜的に分類したもの、ポツダム宣言の受諾は「無条件降伏」ではなく「有条件降伏」だった、東京裁判は法治社会の根本原理「事後法の禁止」と「法の平等適用」を破っている東京裁判は根本的に裁判でない等々、学校の日本史レベルでは分からない(教えてくれない)ことばかりで、目からうろこでした。

「ゴーマニズム宣言」の絵柄は善人、悪人をはっきりと書き分けているので、「イメージ捜査」との批判も多々受けているようですが、自分の頭で「なぜ」、「どうして」と考えながら読んでいくと、そのバランス感覚の良さが良く分かります。

書中、戦艦ミズーリ号で降伏文書に署名した重光葵の句「願わくは御國の末の栄え行き我が名さけすむ人の多きを」とまで覚悟して読んだ「御國の末の栄え」はこのような有様でよかったのかと作者・小林よしのりが物思いに耽る一コマがありますが、自分も全く同感です。

歴史に興味があるなしに関わらず、一読の価値ある書だと思います。

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誉田哲也「シンメトリー」

風邪を引いてしまったようで、頭と喉の痛みと熱があります・・・。仕事を休んで安静にしていたら大分楽になりましたが、このブログをご覧になっている方も風邪には十分お気をつけください。

そんな中、誉田哲也「シンメトリー」の感想でも

姫川玲子は、警視庁捜査一課殺人犯捜査係に所属する刑事だ。主任として、「姫川班」を率い、殺人事件の捜査にあたっている。なりたくてなった刑事、三度の飯より捜査活動が好き、できれば派手な事件に挑みたい。そんな女だ。しかし、事件の真相と司法との間には、割り切れぬ闇も確実に存在して…。(BOOKデータベースより)

以前、このブログでも紹介した「ストロベリーナイト」、「ソウルケイジ」に続く姫川シリーズの第三弾です。前作までのキャラクターは健在で、今作は7編の短編から構成されています。

(東京) 姫川所轄時代の話。高校で起こった不可思議な殺人事件(?)を姫川の上司・小暮と姫川が解決していきます。終盤、犯人を説得するシーンには少しほろりときました。

(過ぎた正義) 今回の短編集の中でも秀逸の出来です。姫川VS倉田の今後の展開で長編1本書けるのでは。

(右では殴らない) 援助交際をしている容疑者の高校生を理詰めでねじ伏せるシーンは痛快です。けど姫川ってこんなキャラだっけと疑問に思ったのも事実です。(面白かったですが)

(シンメトリー) 「私が犯人だったら、こんな夜は現場を見たくなる」のセリフがかっこいいです。けどこのセリフ姫川の決めセリフではないんですよね・・・。

(左から見た場合) 最後のオチにホラー系(?)の要素が詰まってます。警官がどんなに頑張っても犯罪が減ることはないという姫川の疑念に答えた今泉警部の言葉「たとえば農家の人は、作っても作っても、みんなが食べちまうから、また作らなきゃならないなんて、そんな風に嘆きはしないだろう。(中略)警察だって同じさ。犯罪は決してなくならないが、少しでも少ない状態に保つよう努力する。それが社会秩序の維持に繋がる。それでいいんじゃないかな。」がよかったです。

(悪しき実) 話としては可もなく不可もなくといったところです。話の終わり方を見ると次回作はこのテーマになるのかな。(大和会との抗争)

(手紙) こちらも姫川所轄時代のお話です。犯人は比較的容易に分かりますが、姫川流の罪と罰論は面白かったです。

これで姫川シリーズは一応(?)読破したことになりますが、是非第4作、第5作と息長く続けてほしいシリーズです。

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奥田英朗「オリンピックの身代金」

本日は、年末年始に読みふけっていた奥田英朗「オリンピックの身代金」の感想でも。

昭和39年夏。10月に開催されるオリンピックに向け、世界に冠たる大都市に変貌を遂げつつある首都・東京。この戦後最大のイベントの成功を望まない国民は誰一人としていない。そんな気運が高まるなか、警察を狙った爆破事件が発生。同時に「東京オリンピックを妨害する」という脅迫状が当局に届けられた!しかし、この事件は国民に知らされることがなかった。警視庁の刑事たちが極秘裏に事件を追うと、一人の東大生の存在が捜査線上に浮かぶ…。(BOOKデータベースより)

描写は基本的に警察側と犯人側、両者の視点で描かれていますが、それぞれの描写について時系列をずらしていることから、展開の一部分が常に見えない形となっており、早く次が読みたくなる展開となっています。なかなかうまい手法ですね。

作者はエッセイ「野球の国」において、「自分はプロットを立てずに小説を書き始める」、「神はディテールに宿る」といったことを記していますが、まさにディテールの描写がうまいですね。特にも主人公・島崎が実家の秋田へ帰省した時の閉塞感や兄の後を継いでオリンピック工事現場で働く土方の悲喜こもごもの描写は、引き込まれるものがありました。この読者をグイグイ惹きつける筆致は「邪魔」、「最悪」にも全く劣りません。

欲を言えばラストシーンがやや物足りなかったか。終わり方は何となく想像がつきましたが、個人的にはできれば避けてほしかったエンドでした。著者の持ち味は「どんでん返し」ではないことは百も承知ですが、他に納得のいくエンドを選択することができなかったのかな・・・。

とはいえ、500ページ強の大作を「長い」と思わずに読ませる力は流石でした。「もうミステリーは書けないのか」という心配が杞憂に終わって何よりです。

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